産経大阪杯とトウカイテイオーと岡部幸雄。そして、僕。

僕が初めて競馬を観たのはオグリキャップの引退レース、第35回有馬記念でした。まだ中学三年生の僕は当然のことながら馬券は購入できないため、父親に頼んで一番人気の菊花賞2着馬ホワイトストーンの単勝馬券を千円購入してもらいました。当時はまだ千円単位でしか馬券を変えなかったため。

結果はご存知の通りオグリキャップが見事に引退の花道をかざる形で幕を閉じました。僕の応援したホワイトストーンは僅差の3着に負けました。そして、年が明けて間もなくターフには新しいヒーローが誕生します。トウカイテイオーの登場です。トウカイテイオーの話をするととても長い話になってしまいますが、簡単に彼のプロフィールを紹介すると、父親が無敵の七冠馬と言われるシンボリルドルフで『皇帝』という異名を持つほど強く美しい馬でした。

ルドルフにそっくりの風貌で生まれたテイオーは成績もたがわず、無敗のまま皐月賞とダービーの二冠を獲得します。生まれながらにしてエリートのテイオーには幾度も試練がもたらされます。ダービー出走後に骨折が判明したのです。馬の筋肉と骨はひっついているのですが、テイオーの場合、あまりにも筋肉のバネが強すぎるために骨の一部が欠けてしまうのです。

逆に骨が丈夫な馬の場合は屈腱炎という病気になりやすいそうです。ナリタブライアンがそのタイプですね。僕はトウカイテイオーの復帰戦に当たる産経大阪杯を観に友達と阪神競馬場に向かいました。このレースから鞍上にはシンボリルドルフの主戦騎手を務めた世界の名手岡部幸雄が乗ることになりました。

当初のエピソードで面白いのがあります。レースの一週前の調教で初めてテイオーにまたがった岡部のインタビューです。『いざ追い出すと地の果てまでも走っていっちゃいそうな感じ』大阪杯はテイオーにとって絶対に落とせない一戦でした。なぜならライバルと目される前年の天皇賞馬メジロマックイーンが先に阪神大賞典を圧勝していたからです。

僕は改装後の阪神競馬場で息を呑んでスタートを待ちました。テイオーは2番枠から普通にスタートを出るとそのまま内の経済コースを通って第3コーナーを回ってきました。しかし、まだ上がっていく素振りは全くありません。そして、第4コーナーを過ぎて最後の直線に入ってきます。

鞍上の岡部騎手の手は全然動きません。手綱を静かに持ったまんまです。実際に岡部の手が動いたのは残り一ハロンを過ぎてからの一瞬でした。手綱を軽く緩めただけでテイオーは一気に加速し、先頭に立つとあとは軽く流して3馬身差でゴールをしました。その走りの美しさに僕は完全に圧倒されてしまいました。馬券はホワイトストーンを買ったのですが、そんなことは関係ないくらいに僕は凄いモノを観ました。